Table of Contents
Abstract
要約
Acknowledgments
謝辞
Prelude: Introducing a Maverick in Science
Benoit Mandelbrot, the "father" of fractals, has made a career of going against the prevailing fashions in science.
序文 孤高の科学者---ベノワ・マンデルブロ
フラクタルの生みの親、科学の世界で一匹狼を貫いてきた人生
Part I. The Old Way
第1部 たどってきた道
Chapter I Risk, Ruin, and Reward
第1章 リスクとリターン
"Modern" financial theory is founded on a few, shaky myths that lead us to underestimate the real risk of financial markets.
金融工学は、リスクを過小評価するような都合の良い仮定に基づいて構築されている!
リスクの研究
正規分布からベキ分布
偶然のゲーム
Chapter II By the Toss of a Coin or the Flight of an Arrow?
第2章 運を決めるのは、サイコロか、弓矢か?
How the operations of mere chance can be used to study a financial market.
金融市場における例外的な事象を確率的に正しく扱う方法
金融市場における「運」とは
単純な「運」の理論と複雑な「運」の理論
「マイルド型」の運
目隠しされたアーチェリー選手
再び金融の話
Chapter III Bachelier and His Legacy
第3章 バシェリエの功績
The study of financial theory began a century ago with a brilliant but undervalued French mathematician, Louis Bachelier.
バシュリエの功績
100年前、運を逃した天才フランス人数学者によって金融市場の研究は始まった
「鷲にあらず」
市場の動きをコイン投げに見立てる
効率的市場
Chapter IV The House of Modern Finance
第4章 金融工学の楼閣
How the edifice of modern financial theory?valuing assets, building portfolios and assessing risk?was erected on Bachelier's work.
バシュリエの土台の上に構築された金融工学の楼閣---ポートフォリオとオプション
マーコヴィッツ---リスクとは何だろう?
シャープ---資産の価格はいくらだろうか?
ブラックとショールズ---リスクの値段
ウォール街に広める
Chapter V The Case Against the Modern Theory of Finance
第5章 金融工学の落とし穴
Orthodox financial theory is riddled with false assumptions and wrong results. A summary of the evidence against it.
標準的な金融理論が、ありえない仮定に基づいて誤った結果を生み出す理由
根拠の仮定
Pictorial Essay: Images of the Abnormal
科学の画廊---まれな事象のグラフ
証拠
本当に役に立つのか?
終わりなき過ち
Part II. The New Way
第2部 新たな道
Chapter VI Turbulent Markets: A Preview
第6章 市場の乱流---はじめに
Financial markets are turbulent?like the wind or the flood. An introduction to the fractal view of finance.
フラクタルの視点で見る市場---金融市場は水や空気の乱流と似ている
トレーディングの乱流
ブラウンとバシュリエのために
さらなるモデルの改良
Chapter VII Studies in Roughness: A Fractal Primer
第7章 凸凹の研究―フラクタル入門
How is a stock-price chart like the leaves of a fern? A survey of fractal geometry.
フラクタル幾何学の視点---市場価格変動のチャートと羊歯の葉の類似性
凹凸の法則
凹凸を測る次元
Pictorial Essay: A Fractal Gallery
科学の画廊---フラクタル・ギャラリー
Chapter VIII The Mystery of Cotton
第8章 綿花価格のミステリー
The first clue to the fractal view of finance came in a study of cotton by Mundelbrot.
フラクタルの概念はマンデルブロによる綿花価格の解析から生まれた
An account of his scientific journey.
ひらめきの瞬間
第一の手がかり---四面楚歌のベキ乗則
第二の手がかり---経済学におけるベキ分布の始まり
第三の手がかり---例外的な運の法則
綿花の価格---全てがつながる
結末
綿花の騒動の意味
裾野の長い分布
Chapter IX Long Memory, from the Nile to the Marketplace
第9章 長期記憶---ナイル川から市場まで
The second clue to fractal finance came from lifelong study of the Nile River by an English hydrologist, H.E. Hurst.
イギリスの水利学者ハーストの人生をかけたナイル川の研究が金融市場に役立った
ナイルの父
父の時代
ランダムな競争
パラメータHを売り込む
絵で見る長時間相関
Chapter X Noah, Joseph, and Market Bubbles
第10章 ノア、ヨセフ、そして市場のバブル
The two critical features of financial markets are wild price swings and long-term dependence?the Noah Effect and the Joseph Effect.
ノアの効果とヨセフの効果---大変動と長時間相関が金融市場の特徴
宇宙人から見た市場
激しい変動の二つの形
バブル発生の理由
Chapter XI The Multifractal Nature of Trading Time
第11章 トレーディング時間のマルチフラクタル性
In financial markets, time speeds up and slows down?as described in the multifractal model of markets.
市場の時計は速く進んだり遅く進んだりする---マルチフラクタル市場モデル
きわめて簡単なモデル
マルチフラクタル時間
モデルの改良---格子を使わないマルチフラクタル・モデル
モデルの応用
Part III. The Way Ahead
第3部 これからの道
Chapter XII Ten Heresies of Finance
第12章 禁断の金融10ヵ条
How do financial markets really work? A list of key insights provided by the fractal view of finance.
市場の本当の姿---フラクタルの視点からの教訓
1 市場価格とは乱高下するものである
2 市場とは、きわめてリスクが高いものである---既存の金融理論ではけっして起こるはずのないリスクが、現実には起こる
3 市場のタイミングはきわめて重要である。巨額の利益と損失は短期間に集中して起こる
4 価格はしばしば不連続にジャンプする。そして、それがリスクを高くする
5 市場での時間は、人によって進み方が違う
6 いつでもどこでも市場は同じように振る舞う
7 市場は本来不確実であり、バブルは避けることができない
8 市場は人をだます
9 価格の予想は無理と思え。しかし、ボラティリティなら予測可能だ
10 市場における価値は、限定された価値である
Chapter XIII In the Lab
第13章 実験室にて
So how can the study of fractals change finance? A program for future research.
フラクタルは、金融の世界をこれからどのように変えていくのか?
問題1---投資の分析
問題2---ポートフォリオの構築
問題3---オプション価格
問題4---経営のリスク
武器をとれ!
Notes
注
Bibliography
参考文献
Index
索引
IN THE SUMMER OF 1998, the improbable happened.
On Wall Street, the historic bull market of New Gay '90s was
looking tired. There was no single, overwhelming problem---just a
series of worries: recession in Japan, possible devaluation in China,
and in Washington a president battling impeachment. Then came
news that Russia, just two years earlier the world's hottest emerging
market, was hitting a cash crunch. Western banks and debt-traders
would suffer; a few, it later emerged, were already near ruin. So on
August 4, the Dow Jones Industrial Average fell 3.5 percent. Three
weeks later, as news from Moscow worsened, stocks fell again, by
4.4 percent. And then again, on August 31, by 6.8 percent. Other
markets reeled: Bank bonds plummeted a third from their usual
value against government bonds. The hammer blows were shock-
ing---and for many investors, inexplicable. It was a panic, irrational
and unpredictable; "the culmination of a meltdown," one analyst
told the Wall Street Journal. It might, said another, "take a lifetime
for investors to ever recoup some of those losses."
1998年の夏、起こるはずのない大事件が起こりました。
当時は、ウォール街の歴史的な強気相場が一息ついた状態で、市場には何ら表だった問題はありませんでした。ただ、人々の間に、何となくもやもやとした不安感がたちこめていました。日本の景気が後退しつつあったこと、中国の資産価値の下落が予測されていたこと、そして、ホワイトハウス周辺で大統領の弾劾を叫ぶ声があがっていたことなどの社会情勢がその原因でした。また、それらの問題に加えて、ロシアでお金の流れが停滞する流動性の危機に直面していたことも懸念材料でした。そのわずか2年前には、世界で最も活気のある新興市場と言われていたロシアの市場が、すでにすっかり勢いを失っていたのです。表立ったニュースは特になかったこの時点で、実は、欧米の金融機関はすでに大きな実害を受けていたことが後にわかりました。壊滅的な打撃を受けていたトレーダーがかなりの数に上っていたのです。
そうこうしているうちに8月4日にダウの平均価格は1日で3.5%下がり、3週間後、ロシアの流動性の危機が明るみに出たために、さらに4.4%下がりました。そして、とうとう8月31日にはわずか1日で6.8%もの歴史的な下げ幅を記録し、株式以外の市場も軒並み下落してしまったのです。この最悪の1ヵ月の間に金融資産の時価総額の1/3を失った金融機関もあり、多くの投資家は現実を素直に受け入れることができないような状況に陥ってしまいました。これは、合理的な人間の行動からは理解できない集団的なパニックが起こった結果であり、あるアナリストは『ウォールストリート・ジャーナル』紙で「底の見えない暴落の連鎖」と評しました。また他のアナリストは、ここで投機家がこうむった損失は一生かかっても投資家が取り戻すことはできないだろう、と絶句しました。